素直な表現に〇を付ける大切さ

素直な表現に〇を付ける大切さ

素直な表現に〇を付ける大切さ


子どもたちの素直な表現を引き出すことに
喜びを感じながら、
わたしは小学校での文章表現出前授業、
作文添削に携わっています。

とくに添削やコンクール審査では、
一度に数多くの作文に触れる機会をいただきます。

(写真は小学校への作文出前授業の様子)



子どもたちの生き生きとした表現、
自由でユニークな発想を受け取ることの出来る体験は
本当に楽しいものです。

原稿用紙に二枚から三枚、
文字にして八百~千二百文字、
その中に文章をしたためた
その子の背景をありありと感じることが多くあり、
言葉の力の強力なこと、
作文の奥深さなどを都度実感します。

苦しい作文とは

子どもの表現に触れるのはとても楽しいこと。

しかし、その一方で
「苦しい」という感じを受ける作文も
少なからずあるのです。

そんな作文に滲み出ているのは、
「その子ども本人ではない誰かの存在」です。

文章はとても上手に構成されており、
主題も明確に捉えて
「とってもいいこと」を書けているのですが、
そこに「その子ども本人の本当の気持ち」が
見えないのです。

そんな「苦しい」作文に出会った時に、
わたしはいつも
自らの過去へ引き戻される想いをします。

わたしの苦しい思い出

それは、わたしが小学校一年生のことです。

ある日、「お父さん」という題材で
作文の宿題が出されました。
わたしは、お父さんの仕事のこと、
お父さんに買ってもらった
ぬいぐるみのことなどを書き、
最後に

「おとうさんは、しごとからかえってくると
いつもわたしをギュッとだきしめる。くるしい。」

と書き、作文を提出したのでした。
その作文を読んだ先生が、

「最後に、“そんなおとうさんがだいすきだ”と
書いてあるととてもいいね」

と言いました。

“おとうさんがだいすき”でもなかったわたしは、
内心「えー…、やだなぁ」と思いながらも、
言われるまま、
“そんなおとうさんがだいすきだ”の一文を
付け加えたのでした。

すると、なんと
その「おとうさん」の作文が校内で選ばれ、
県のコンクールで入選してしまったのです。

父は“おとうさんがだいすきだ”の一文に気を良くし、
母は入選を喜んでくれました。

しかし、その時わたしの中にあったのは
喜びよりも何よりも「罪悪感」でした。

ウソを書いて、賞を取ってしまった…。
ウソなのに、
たくさんの人に見られてしまうことになった…。
わたしではなく、
先生が考えた一文が評価されているのに、
わたしが褒められている…。

自分が思ってもいないことを
広く発表することになってしまい、
さらに評価されるという事態に
しばらくいたたまれない想いをする日々でした。
その時の「罪悪感」の感情は、
今でも強烈に覚えています。

ありのままでない罪悪感

小学校一年生の時のそんな体験は、
わたしに大きな影響を与えました。
それ以来、大人がどんなことを喜ぶのかを基準に
作文を書くようになったのです。

そのために、
自分の気持ちとはかけ離れたことを
書くこともありました。

それでも、先生を含む周りの大人は
「よく書けているね」と褒めてくれました。

だから、それでいいと私も思っていたのです。

自分の本当の気持ちを表現することの
大切さに気が付いたのは、
それからずいぶん経った
大人になってからのことでした。

それまで薄れていた、
自分を偽り人と接する「罪悪感」が、
ツケとなって表れたのです。

何か窮屈な思いに突然気付き、
それは私を苦しめました。

そして私は、
これまでの偽ってきた自分をすべて払拭して、
本当の自分を表現して
周囲と関わっていきたいと
強く思ったのでした。

今では、そうすることこそが
生きていく上での喜びだと思っています。

素直に生きることに〇を

私たちの作文添削や表現のトレーニングでは、
良いと思う表現を外側から付け足すのではなく、
子どもが元々持つ気持ちやそれを表現する力を、
自然な問いかけによって
内側から引き出すアプローチをします。

それによって、
子どもは自分の持てる力を
最大限に発揮することができます。

そして、思い切り自己表現のできる快感、
それを受け止めてもらえる安心感を味わいます。

この経験の積み重ねが自信となって、
さらなる豊かな自己表現を育み、
生き生きとした作文となっていくのです。

生き生きとした作文は、
子どもの本当の気持ちが表現されてこそ。

子どもの生き生きとした表現は、
飾りのない素直な表現を受けとめる心から始まります。

今日は、どんな言葉が聞けるかな?

そんな風に楽しむ心を持って、
子どもたちの表現を受けとめていきたいものです。

子どもたちの素直な表現のすべてに
〇を付けてあげましょう。

〈完〉



マナビエルコンセプトデザイン担当 中尾由紀

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